3月24日。まだ桜は二分咲き。春だというのに、朝から冷たい雨が降り続いていた――。
SMナイトはなぜか雨降りが多い。加藤鷹は、TOHJIRO監督が雨男のせいだと言う。しかし今日の雨は少し違うかも知れない。今日の雨は涙雨。女優さんを初めとする出演者、スタッフ、そしてファンの哀しみ、虚しさ、切なさが降らした涙雨だ、きっと。今夜の主役は友田真希。彼女の引退に花を手向けるSMナイトなのだから。

満員御礼。ドグマのファンは熱い。SMファンは熱い。会場が暗転すると、その熱気を一度は鎮めようとするかのように、ボーン、ボーンと梵鐘が鳴り響く。まさに『平家物語』の書き出しにある「諸行無常の響きあり」だ。どんなに活躍した女優さんでも、いつか引退する日がくる。AVを卒業するという無常の流れに身を置いた真希ちゃんには、とても相応しい響きだと思えて、鐘の音だけで胸がジーンとなった。
第一部がスタート。
真希ちゃんのドグマでの出演作の映像メモリアルがスクリーンに映し出される。その官能的な美しさを誰もが懐かしんだその直後だった。目を疑うような映像が流されたのだ。星月まゆらメモリアル。なぜ…!? まさか、まゆらちゃんも…!? 暗闇の中から、観客の動揺が伝わってきた。
TJがステージに現れ、挨拶する。「今回のSMナイトは8年間頑張ってきた真希ちゃんを送るための会にしようと思ってきたのですが、星月まゆらの引退も先週の金曜日に決定しました。精神の病気を患っていまして、そうした中でも頑張ってきたんですけど、やっぱりどうしても調子がよくなくて、ドクターストップということになり、9年間のAV女優生活にピリオドを打つことになりました。あまりにも急なので皆さんもびっくりしたと思います。僕もまだ心の整理がついていません。4年前の第1回SMナイトは、真希ちゃん、まゆら、ゆりあちゃんの3人を中心メンバーに始めて、今日二人がいなくなります。M女軍団は何だったのか、いろいろな思いがありますけど、目一杯思いがこもった会にしたいと思います」
続いて参加メンバーがステージに呼び出された。若い桃瀬えみるは純白の、そして七咲楓花はピンクの長襦袢。初々しいイメージに萌える。日高ゆりあ、星月まゆら、友田真希は真紅の長襦袢。こちらは妖艶で、思わず溜め息。女優陣に続いて、加藤鷹と縛師の奈加あきらが、粋でいなせな着流しで登場。女優陣の挨拶を簡単に紹介しておこう。
桃瀬えみる 「今日はこういうイベントに参加できて嬉しいです。思い出に残るイベントにしたいです」
七咲楓花 「いろんな思い、いろんな意味があると思うんですけど、今日は朝から雨が降ってて、この雨もいろいろある気がして…(後は何を言っているか判らない)」
日高ゆりあ 「SMナイトは初めから参加していますけど、一人になっちゃった。ちょっと寂しいけど、二人を笑顔で見送れるように頑張りたいと思います」
友田真希 「もうなんかここに入ったときから無理なんです。たいぶテンパっていて、鼻水とかいろいろ出ちゃうと思うんですけど。8年間応援してくれた皆さん、本当ありがとうございました。最後まで見届けてください」
星月まゆら 「本当に急ですみません。急すぎて何を言うか考えてなかったんですけど、SMナイトはSMでいっぱい怪我をする女の子がいるんで、その呼びかけのためにスタートしたイベントなんです。SMは危ないんだよっていう、今夜もちゃんとそれを伝えたい。でも緊縛の美しさっていうのは危険と紙一重でそこにあるので、その緊張感を今夜も堪能していってくれれば嬉しいと思います」
鼻水を啜る真希ちゃんと、思い切り元気な声で挨拶したまゆらちゃん以外の3人は、話し始めて、感極まってすぐに泣き出した。涙の連鎖反応。楓花ちゃんには、観客席から「泣くな!」と声援が飛んだ。

今回のSMナイトの物語の舞台は、遊郭の中にあるお仕置き部屋。足抜けしようとして捕まったり、言うことを聞かない女郎たちが折檻される悲しみに満ちた部屋だ。女郎たちはその部屋で飼われるかごの鳥。自由も幸せも知らないかごの鳥――。
まず、楓花ちゃんが客席後方の太い柱に縛りつけられていく。縄酔いして、かすかに喘ぎを漏らす。足が持ち上げられた。裾がまくられ、真っ白いショーツが露わになる。胸もはだけられ、乳房が露出した。啜り泣きが聞こえてくる。もう、完全に緊縛の快楽の世界に浸っている。
TJがつかつかと歩み寄る。サングラスがライトでキラリと光ると、つぎの瞬間、ビンタが楓花ちゃんの頬で炸裂した。乳首がつねり上げられる。泣き顔から舌が引っ張り出され、両乳首とともに洗濯ばさみに食いつかれた。洗濯ばさみを繋いだ糸がグイグイと引かれる。痛みが大好きな楓花ちゃんの恍惚とした表情。その儚さ、官能美。涎が銀の雫となって滴る。奈加さんの渾身の鞭が飛んだ。乳房に、おなかに、太ももに。痙攣したようにボディを揺らしながら、ついにイッた――。
ステージで縛られていくゆりあちゃん。目は虚ろ。縛られるだけで涎が溢れ出る。いつ見ても、彼女の縄酔いは深い。TJの野太い声が飛ぶ。「M女をやめると、こういうことはできないよ」切羽詰った声で「やめない」と漏らすゆりあちゃん。「なら俺のオシメを代えるまでやってくれよ」そんなTJの声を聞きながら吊るされていく。爪先立ちでゆらゆら。
鷹さんが現われ、乳首をいじると、自分で足を上げて宙吊りになった。足がバタバタともがく。そして達した。裾がまくられると、下は褌だった。尻スパンキングに絶叫。蝋燭責めされると、また自分から体を浮かす。宙吊りはよほど気持ちいいのだろう。
背中、舌へ滴る真っ赤な蝋。とうとう逆さ吊りにされた。ブランコみたいに揺らされる。「鞭をください…」おねだりせずにはいられないドM嬢。奈加さんの鞭が全身で炸裂して、体の蝋を吹き飛ばす。鞭でまた達した。その肉体に降り注ぐ桜吹雪。――。
えみるちゃんは、売られてきたばかりの小鳥だ。人生初の緊縛は正座して。正座しているのに「足が震える」と言う。緊張と不安。
「どう? 大勢の変態の前で」と意地悪を言うTJ。すかさず「心配いらないから」と観客席から声が飛ぶ。ふと見せる笑顔は緊張を隠すためか。少し頬が紅潮してきた。じわじわと肉体を侵食する快感に耐えているのか。そんなえみるちゃんの端正な顔は、とても美しい。
えみるちゃんをかまいたくて仕方ない子供みたいなTJ。ショーツを露骨にチェックして、また恥ずかしがらせる。鷹さんの乳首責めに喘ぐ。一気に高まる。緊縛効果もあり、あっという間にイッてしまった――。
初縛りでMの素質十分なところを見せてくれたえみるちゃん。ここで彼女のドグマ2本目『Mドラッグ』のダイジェストが紹介された。イラマゲロ噴射。拘束イキまくり。小便&ザーメンぶっかけ。中出しガチンコセックス。見たこともないほど過激なえみるちゃんの姿に場内がざわめく。
えみる 「私は今までこういう作品には出たことはなかったんです。初めはやっぱり不安とか迷いとかいっぱいあって、でも自分でできるところまでやってみたいっていう思いがあったんで、挑戦してみようって。撮影当日の朝もずっと不安で、乗り越えられるのか、最後までできるのか、そういう不安がありました。けどやってみて本当に後悔もしてないし、むしろ自分の新しい発見とかできたなって思っています。監督さんとかいろんなスタッフさんと出会えてすごく感謝しています」
TJ 「俺は撮影が終わったときにえみるが言ってくれた『3年間やってきたどの事より、『Mドラック』と『イラマ少女』をやったことが勉強になった』って言葉に感激しました。こっちこそどうもありがとう。こういう縄の世界にもやってきてください」
まゆらちゃんと楓花ちゃんがTJに呼ばれてステージへ。去る者、まだまだ活躍を期待される者が、お互いにエールを送る。
まゆら 「何を言うかまったく考えてこなかったんですが、ぜひぜひ楓花ちゃんは感情のまま泣いたり笑ったりしてください。楓花ちゃんは気持ちと逆のことをしがちなんで、思ったことを満足いくまでやってください。ずっとて見守っています」
楓花 「(まゆらちゃんがやめるなんて)本当に実感がないというか、心の整理がつかない。まゆらちゃんと出会って1年経って、現場とかでもすごいパワーを送ってくれて、もっともっとまゆらちゃんと濃い時間を過ごしたかったです。まゆらちゃんも自分の気持ちとか心を大切にしてください。まゆらちゃんらしい幸せを掴むことができればいいと思います」
TJ、ここで真希ちゃんを呼ぶ。引退する彼女のためにまゆらちゃんが作った曲を本人が熱唱。彼女の透明感のある声が、人いきれで澱んだ場内の空気を浄化していく。「♪あなたの笑顔は僕の心の中で 別れの夜空に輝いて~」哀しみの中にも、大きな希望を抱かせる素敵な曲だった。
まゆらちゃんの歌が終わると、真希ちゃんはまゆらちゃんへの手紙を朗読。「長い間おつかれさまでした。突然のことでまだ心の整理がついていませんが、新たな一歩を踏み出す力、勇気が湧いてきたってことだよね。それは素直に嬉しく思います。卒業おめでとう。AV女優やってたことで、少し立ち止まり自分の歩いて来た道を振り返り、それを受け入れることができたとき、ちゃんと前を向くことができるんだと思う。私もそうだったから。
卒業するってことは、前を見たときに女優ではない他の道が見えたってことなんだよね。今の気持ちを大切に、それを気づかせ、立ち上がる勇気をくれたファンの皆さんや、TOHJIRO監督初めドグマの皆さんに感謝して、新たな道で幸せをいっぱいに見つけてください。これからもいろんなことがあると思う。傷つくことも挫折することも。でも周りには応援してくれる人、見守ってくれる人がたくさんいるってことを忘れないでください。いつまでもまゆらちゃんの幸せを祈っています」途中から泣き出した。しかし、彼女は力強くかつ優しさを込めて読み上げた。
ここでTJが二人に深々と頭を下げた。
TJ 「6年前にお前らと出会って、でも出会ってなかったらいっぱい伝説作れなかった。本当に言葉にならないくらい感謝しています」 楓花ちゃんだけステージに残り最新作『縄犯』の話題へ。
楓花 「やっと先日SMを撮りました。ずっとやりたかったけど、やらしてもらえず、伸ばし伸ばしになっていたけど、やってみたらやっぱりとてもよかったし、もうちょっときつくして欲しかったです」
TJ 「もっときつくして欲しかった? どんどんやってください、これから。真希ちゃんたち偉大な先輩の跡を継げなんて言いません。お前はお前。SMのスタートに立った時点で、お前の中に物凄いものが潜んでいるのか判りました。もっとやりたいと思ったんだったら、大いにやってください。それがお前の居場所です」
その『縄犯』のダイジェスト映像が流された。鼻フック。緊縛と鞭。ゲロイラマ。柱縛り。尻スパンキング。蝋燭。強烈なシーンの連続に、観客席、沈黙。終わると大きな拍手が贈られた。

第二部がスタート。寸劇。遊郭。友田真希、星月まゆら、七咲楓花の女郎三人。「私は女郎の子で、ここで生まれたから、生まれたときから気がふれているのかもね」とまゆら。狂気に取り憑かれ、手首を切ったまゆら。その手首に包帯を巻く真希。離れ離れになった村の幼馴染みの男が、金を貯めて年季明けの真希を迎えに来るという。しかし、長年遊郭で生きてきた真希もまた遊郭の外の世界へ出ることに不安を感じている。水揚げ前の幼い楓花にも、二人の不安が伝わってくる。
二人がステージから去ると、楓花のモノローグ。「かごの中の鳥は外に出るのが怖くないのかな。かごの中にいたほうが安全なんじゃないかな。まゆら姉さんは幸せが怖いってよく言ってる。幸せってものが判らないから怖いって。中にも外にも幸せってものがないのだとしたら、まゆら姉さんはいったい何処に行きたいのだろう…」
年季明けで遊郭を去る女郎。精神を患った女郎。これからも遊郭で生きていく女郎。これはまさしくAV女優としての真希ちゃん、まゆらちゃん、楓花ちゃんのメタファーに違いない。今回のSMナイトを意識した寸劇だった。10分程度の寸劇だったが、深みのある三人の演技が華を添えた。真希ちゃんは以前から、M女軍団で遊郭物をやりたかったそうだ。その夢は実現しなかったが、その夢は楓花ちゃんやえみるちゃんたち後輩が引き継がれたかも知れない。
まゆらちゃんが縛られていく。緊縛される女の儚さ、美しさ、そしてエロスがその顔と肉体に凝縮されている。被虐のオーラとでも言おうか、それが見えるようだ。これが見納めだと思うと、ちょっと切なくなる。立ったまま、深い縄酔いで体が微妙に揺れている。片足が天井の梁に届くほど高く持ち上げられた。真紅の長襦袢がめくれて、白い細い太ももと脚が露になる。現場で何度も見ているのに、不思議にもドキッとする。
窮屈に体を折り曲げられ、そのまま宙に浮く。揺れて回転。その小さなお尻に奈加さんの渾身の鞭が振り下ろされた。何発も。そして達した。これだけでは終わらない。手首と足首を後ろでまとめて縛り上げられ、また宙へ。駿河問い、という拷問だ。まゆらちゃんの十八番。吊るされたまま観客席へとスライドしてくる。胸に石が吊るされ、クルクルと回転させられる。SM緊縛図の美とエロスの極地。これをライブで見られるなんて、本当に幸せだ。そして桜吹雪――。

いよいよ真希ちゃんが登場。「妖艶」と書いて「友田真希」と読む。「友田真希」と書いて「耽美」と読む。AV界を艶やかに飾った稀代の美熟女。奈加さんとはSMシーンで数々の伝説を作った絶妙のコンビ。その奈加さんの手で縛られる悦びを噛み締めている。両脚をグルグル巻きにする縄。この縛りも美しい。侍ヴァンの監督デビュー作『髪結いの女』のあの縛りだ。縄酔いで自然にユラユラ。ユラユラして悶える。悶えて自分から宙に浮いた。股縄が食い込み、さらに高く持ち上げられる。その股縄を自分から股間深く食い込ませようと体を揺らした。
乳房が露出させられる。観客席ギリギリまでスライドさせられ、背後から奈加さんの鞭が飛ぶ。「最後だ、ほら!」魂の鞭。何発も何発も鞭が唸る。空気を引き裂くかわいた音に「イクイクイク~!」と熱く湿った声が重なる。そして絶頂へ。桜吹雪。ステージに下ろされ、縄を解く奈加さんは、後ろから真希ちゃんを抱き締めていた。友田真希、慟哭――。

ついにエンディングのときが来た。出演者全員がステージに勢揃い。まずドグマの監督陣から真希ちゃんへ花束が贈られた。ビーバップ・みのる。ノーマルKIM。侍ヴァン。みんな真希ちゃんのおかげで一人前の監督になったと言っても過言ではない。いい女優さんは監督も育てる。
一観客としてステージを見守っていた森下くるみちゃんも花束を持って登場。「同じ女優として言えるのは、長い時間、長い期間、本当にお疲れ様でしたという一言です」とねぎらいの言葉をかけた。客席のファンからも花束のプレゼント。真希ちゃんの目は潤みっぱなし。
続いて、出演者から真希ちゃんとまゆらちゃんへ贈る言葉。
加藤鷹 「僕はいろんな方の引退を見届けさせていただきましたが、すべての方に贈る言葉は同じです。今日も同じ言葉を送ります。二度と帰ってこないでください」
奈加あきら 「真希ちゃん、長い間どうもありがとうございました。あなたがいなかったら、今の自分はないと思っています。今後は幸せになってください。まゆらちゃん、何日か前にこのことを聞きました、友田さんだけでもいっぱいいっぱいだったのに、正直言葉が出ないです。本当に残念です。まだまだ、まゆらちゃんとはやらなければいけないことがあったんじゃないかと思いつつ、しょうがない。本当にありがとうございました。あなたは僕の弟子(縛師として)だと思っているんで、どっかで会えれば幸いです」
日高ゆりあ 「姉妹だと思って、家族だと思って一緒にやってきて、今日なんて来なければいいと思ってたんたですけど、でも終わりになっちゃって、今までお疲れ様でした」
七咲楓花 「まゆらちゃんとは一緒にやってきて、真希さんとはイベントで会って、今回は三人で…なんだろう(言葉にならない)…もっとやっていたかってたなって思うし、本当に出会えてよかったって思います」
えみる 「お疲れ様でした。まゆらちゃんは撮影のときもずっとそばにいてくれて、すごい優しく声をかけてくれて、まゆらちゃんがいたから勇気づけられて頑張れました。真希さんは今日始めて会ったんですけど、楽屋でもいっぱいお話をしてくれて、アドバイスをたくさんくれて、こんな人がずっとそばにいてくれたらなって思いました。本当にお疲れ様でした」
女優陣は涙にくれて、上手くしゃべれない。でも、こういう湿っぽいのもいい。「泣いちゃえ」「泣くな」観客席から励ましの声が飛ぶ。そして拍手。
友田真希 「本当に8年間たくさんの人に応援してもらって、ここまでやってこれました。女優を始めるときも、卒業しようと思ったこのタイミングも自分の意志です。こうしてみんなに見送ってもらえることは、女優としてとっても幸せなことだと思います。私のわがままで、みなさんを振り回してしまっているところもあると思うんですが、わがままを聞き入れてくれて、こうやって見守ってくれて、こうやって次のスタートに踏み切れることを、とても嬉しく思ってます。
これからも今までの経験をもとに自分の幸せを追求しようと思っているんで、もう応援してくださいとは言えないけど、温かく見守ってください。本当にありがとうございました。」
星月まゆら 「ありがとうございました。これからもずっと見守っていますので、元気になるまで…(言葉が出ない)」
二人の切々たるコメントは、後輩である楓花ちゃんとえみるちゃんの心に深く刻み込まれないとたはずだ。
最後にTJが二人にエールを贈った。
TJ 「真希ちゃん絶対幸せになれよ。まゆら、絶対健康になれよ。絶対死んじゃだめだよ。この二人が一度に引退しちゃって、ドグマはどうなるんだよ。正直その気持ちあります。でもここで立ち止まっていられないし、振り向いてもいられない。今の気持ちは、この二人を超えるM女、出てこいやって感じです」 TJが打ち鳴らすテンカウントのゴングが鳴り響いた。その音は、このイベントに参加したすべての人の胸に刻み込まれた――。

満員御礼。ドグマのファンは熱い。SMファンは熱い。会場が暗転すると、その熱気を一度は鎮めようとするかのように、ボーン、ボーンと梵鐘が鳴り響く。まさに『平家物語』の書き出しにある「諸行無常の響きあり」だ。どんなに活躍した女優さんでも、いつか引退する日がくる。AVを卒業するという無常の流れに身を置いた真希ちゃんには、とても相応しい響きだと思えて、鐘の音だけで胸がジーンとなった。
第一部がスタート。
真希ちゃんのドグマでの出演作の映像メモリアルがスクリーンに映し出される。その官能的な美しさを誰もが懐かしんだその直後だった。目を疑うような映像が流されたのだ。星月まゆらメモリアル。なぜ…!? まさか、まゆらちゃんも…!? 暗闇の中から、観客の動揺が伝わってきた。TJがステージに現れ、挨拶する。「今回のSMナイトは8年間頑張ってきた真希ちゃんを送るための会にしようと思ってきたのですが、星月まゆらの引退も先週の金曜日に決定しました。精神の病気を患っていまして、そうした中でも頑張ってきたんですけど、やっぱりどうしても調子がよくなくて、ドクターストップということになり、9年間のAV女優生活にピリオドを打つことになりました。あまりにも急なので皆さんもびっくりしたと思います。僕もまだ心の整理がついていません。4年前の第1回SMナイトは、真希ちゃん、まゆら、ゆりあちゃんの3人を中心メンバーに始めて、今日二人がいなくなります。M女軍団は何だったのか、いろいろな思いがありますけど、目一杯思いがこもった会にしたいと思います」
続いて参加メンバーがステージに呼び出された。若い桃瀬えみるは純白の、そして七咲楓花はピンクの長襦袢。初々しいイメージに萌える。日高ゆりあ、星月まゆら、友田真希は真紅の長襦袢。こちらは妖艶で、思わず溜め息。女優陣に続いて、加藤鷹と縛師の奈加あきらが、粋でいなせな着流しで登場。女優陣の挨拶を簡単に紹介しておこう。桃瀬えみる 「今日はこういうイベントに参加できて嬉しいです。思い出に残るイベントにしたいです」
七咲楓花 「いろんな思い、いろんな意味があると思うんですけど、今日は朝から雨が降ってて、この雨もいろいろある気がして…(後は何を言っているか判らない)」
日高ゆりあ 「SMナイトは初めから参加していますけど、一人になっちゃった。ちょっと寂しいけど、二人を笑顔で見送れるように頑張りたいと思います」
友田真希 「もうなんかここに入ったときから無理なんです。たいぶテンパっていて、鼻水とかいろいろ出ちゃうと思うんですけど。8年間応援してくれた皆さん、本当ありがとうございました。最後まで見届けてください」
星月まゆら 「本当に急ですみません。急すぎて何を言うか考えてなかったんですけど、SMナイトはSMでいっぱい怪我をする女の子がいるんで、その呼びかけのためにスタートしたイベントなんです。SMは危ないんだよっていう、今夜もちゃんとそれを伝えたい。でも緊縛の美しさっていうのは危険と紙一重でそこにあるので、その緊張感を今夜も堪能していってくれれば嬉しいと思います」鼻水を啜る真希ちゃんと、思い切り元気な声で挨拶したまゆらちゃん以外の3人は、話し始めて、感極まってすぐに泣き出した。涙の連鎖反応。楓花ちゃんには、観客席から「泣くな!」と声援が飛んだ。

今回のSMナイトの物語の舞台は、遊郭の中にあるお仕置き部屋。足抜けしようとして捕まったり、言うことを聞かない女郎たちが折檻される悲しみに満ちた部屋だ。女郎たちはその部屋で飼われるかごの鳥。自由も幸せも知らないかごの鳥――。
まず、楓花ちゃんが客席後方の太い柱に縛りつけられていく。縄酔いして、かすかに喘ぎを漏らす。足が持ち上げられた。裾がまくられ、真っ白いショーツが露わになる。胸もはだけられ、乳房が露出した。啜り泣きが聞こえてくる。もう、完全に緊縛の快楽の世界に浸っている。
TJがつかつかと歩み寄る。サングラスがライトでキラリと光ると、つぎの瞬間、ビンタが楓花ちゃんの頬で炸裂した。乳首がつねり上げられる。泣き顔から舌が引っ張り出され、両乳首とともに洗濯ばさみに食いつかれた。洗濯ばさみを繋いだ糸がグイグイと引かれる。痛みが大好きな楓花ちゃんの恍惚とした表情。その儚さ、官能美。涎が銀の雫となって滴る。奈加さんの渾身の鞭が飛んだ。乳房に、おなかに、太ももに。痙攣したようにボディを揺らしながら、ついにイッた――。
ステージで縛られていくゆりあちゃん。目は虚ろ。縛られるだけで涎が溢れ出る。いつ見ても、彼女の縄酔いは深い。TJの野太い声が飛ぶ。「M女をやめると、こういうことはできないよ」切羽詰った声で「やめない」と漏らすゆりあちゃん。「なら俺のオシメを代えるまでやってくれよ」そんなTJの声を聞きながら吊るされていく。爪先立ちでゆらゆら。
鷹さんが現われ、乳首をいじると、自分で足を上げて宙吊りになった。足がバタバタともがく。そして達した。裾がまくられると、下は褌だった。尻スパンキングに絶叫。蝋燭責めされると、また自分から体を浮かす。宙吊りはよほど気持ちいいのだろう。背中、舌へ滴る真っ赤な蝋。とうとう逆さ吊りにされた。ブランコみたいに揺らされる。「鞭をください…」おねだりせずにはいられないドM嬢。奈加さんの鞭が全身で炸裂して、体の蝋を吹き飛ばす。鞭でまた達した。その肉体に降り注ぐ桜吹雪。――。
えみるちゃんは、売られてきたばかりの小鳥だ。人生初の緊縛は正座して。正座しているのに「足が震える」と言う。緊張と不安。「どう? 大勢の変態の前で」と意地悪を言うTJ。すかさず「心配いらないから」と観客席から声が飛ぶ。ふと見せる笑顔は緊張を隠すためか。少し頬が紅潮してきた。じわじわと肉体を侵食する快感に耐えているのか。そんなえみるちゃんの端正な顔は、とても美しい。
えみるちゃんをかまいたくて仕方ない子供みたいなTJ。ショーツを露骨にチェックして、また恥ずかしがらせる。鷹さんの乳首責めに喘ぐ。一気に高まる。緊縛効果もあり、あっという間にイッてしまった――。
初縛りでMの素質十分なところを見せてくれたえみるちゃん。ここで彼女のドグマ2本目『Mドラッグ』のダイジェストが紹介された。イラマゲロ噴射。拘束イキまくり。小便&ザーメンぶっかけ。中出しガチンコセックス。見たこともないほど過激なえみるちゃんの姿に場内がざわめく。
えみる 「私は今までこういう作品には出たことはなかったんです。初めはやっぱり不安とか迷いとかいっぱいあって、でも自分でできるところまでやってみたいっていう思いがあったんで、挑戦してみようって。撮影当日の朝もずっと不安で、乗り越えられるのか、最後までできるのか、そういう不安がありました。けどやってみて本当に後悔もしてないし、むしろ自分の新しい発見とかできたなって思っています。監督さんとかいろんなスタッフさんと出会えてすごく感謝しています」
TJ 「俺は撮影が終わったときにえみるが言ってくれた『3年間やってきたどの事より、『Mドラック』と『イラマ少女』をやったことが勉強になった』って言葉に感激しました。こっちこそどうもありがとう。こういう縄の世界にもやってきてください」
まゆらちゃんと楓花ちゃんがTJに呼ばれてステージへ。去る者、まだまだ活躍を期待される者が、お互いにエールを送る。
まゆら 「何を言うかまったく考えてこなかったんですが、ぜひぜひ楓花ちゃんは感情のまま泣いたり笑ったりしてください。楓花ちゃんは気持ちと逆のことをしがちなんで、思ったことを満足いくまでやってください。ずっとて見守っています」
楓花 「(まゆらちゃんがやめるなんて)本当に実感がないというか、心の整理がつかない。まゆらちゃんと出会って1年経って、現場とかでもすごいパワーを送ってくれて、もっともっとまゆらちゃんと濃い時間を過ごしたかったです。まゆらちゃんも自分の気持ちとか心を大切にしてください。まゆらちゃんらしい幸せを掴むことができればいいと思います」TJ、ここで真希ちゃんを呼ぶ。引退する彼女のためにまゆらちゃんが作った曲を本人が熱唱。彼女の透明感のある声が、人いきれで澱んだ場内の空気を浄化していく。「♪あなたの笑顔は僕の心の中で 別れの夜空に輝いて~」哀しみの中にも、大きな希望を抱かせる素敵な曲だった。
まゆらちゃんの歌が終わると、真希ちゃんはまゆらちゃんへの手紙を朗読。「長い間おつかれさまでした。突然のことでまだ心の整理がついていませんが、新たな一歩を踏み出す力、勇気が湧いてきたってことだよね。それは素直に嬉しく思います。卒業おめでとう。AV女優やってたことで、少し立ち止まり自分の歩いて来た道を振り返り、それを受け入れることができたとき、ちゃんと前を向くことができるんだと思う。私もそうだったから。卒業するってことは、前を見たときに女優ではない他の道が見えたってことなんだよね。今の気持ちを大切に、それを気づかせ、立ち上がる勇気をくれたファンの皆さんや、TOHJIRO監督初めドグマの皆さんに感謝して、新たな道で幸せをいっぱいに見つけてください。これからもいろんなことがあると思う。傷つくことも挫折することも。でも周りには応援してくれる人、見守ってくれる人がたくさんいるってことを忘れないでください。いつまでもまゆらちゃんの幸せを祈っています」途中から泣き出した。しかし、彼女は力強くかつ優しさを込めて読み上げた。
ここでTJが二人に深々と頭を下げた。
TJ 「6年前にお前らと出会って、でも出会ってなかったらいっぱい伝説作れなかった。本当に言葉にならないくらい感謝しています」 楓花ちゃんだけステージに残り最新作『縄犯』の話題へ。
楓花 「やっと先日SMを撮りました。ずっとやりたかったけど、やらしてもらえず、伸ばし伸ばしになっていたけど、やってみたらやっぱりとてもよかったし、もうちょっときつくして欲しかったです」TJ 「もっときつくして欲しかった? どんどんやってください、これから。真希ちゃんたち偉大な先輩の跡を継げなんて言いません。お前はお前。SMのスタートに立った時点で、お前の中に物凄いものが潜んでいるのか判りました。もっとやりたいと思ったんだったら、大いにやってください。それがお前の居場所です」
その『縄犯』のダイジェスト映像が流された。鼻フック。緊縛と鞭。ゲロイラマ。柱縛り。尻スパンキング。蝋燭。強烈なシーンの連続に、観客席、沈黙。終わると大きな拍手が贈られた。

第二部がスタート。寸劇。遊郭。友田真希、星月まゆら、七咲楓花の女郎三人。「私は女郎の子で、ここで生まれたから、生まれたときから気がふれているのかもね」とまゆら。狂気に取り憑かれ、手首を切ったまゆら。その手首に包帯を巻く真希。離れ離れになった村の幼馴染みの男が、金を貯めて年季明けの真希を迎えに来るという。しかし、長年遊郭で生きてきた真希もまた遊郭の外の世界へ出ることに不安を感じている。水揚げ前の幼い楓花にも、二人の不安が伝わってくる。
二人がステージから去ると、楓花のモノローグ。「かごの中の鳥は外に出るのが怖くないのかな。かごの中にいたほうが安全なんじゃないかな。まゆら姉さんは幸せが怖いってよく言ってる。幸せってものが判らないから怖いって。中にも外にも幸せってものがないのだとしたら、まゆら姉さんはいったい何処に行きたいのだろう…」年季明けで遊郭を去る女郎。精神を患った女郎。これからも遊郭で生きていく女郎。これはまさしくAV女優としての真希ちゃん、まゆらちゃん、楓花ちゃんのメタファーに違いない。今回のSMナイトを意識した寸劇だった。10分程度の寸劇だったが、深みのある三人の演技が華を添えた。真希ちゃんは以前から、M女軍団で遊郭物をやりたかったそうだ。その夢は実現しなかったが、その夢は楓花ちゃんやえみるちゃんたち後輩が引き継がれたかも知れない。
まゆらちゃんが縛られていく。緊縛される女の儚さ、美しさ、そしてエロスがその顔と肉体に凝縮されている。被虐のオーラとでも言おうか、それが見えるようだ。これが見納めだと思うと、ちょっと切なくなる。立ったまま、深い縄酔いで体が微妙に揺れている。片足が天井の梁に届くほど高く持ち上げられた。真紅の長襦袢がめくれて、白い細い太ももと脚が露になる。現場で何度も見ているのに、不思議にもドキッとする。
窮屈に体を折り曲げられ、そのまま宙に浮く。揺れて回転。その小さなお尻に奈加さんの渾身の鞭が振り下ろされた。何発も。そして達した。これだけでは終わらない。手首と足首を後ろでまとめて縛り上げられ、また宙へ。駿河問い、という拷問だ。まゆらちゃんの十八番。吊るされたまま観客席へとスライドしてくる。胸に石が吊るされ、クルクルと回転させられる。SM緊縛図の美とエロスの極地。これをライブで見られるなんて、本当に幸せだ。そして桜吹雪――。
いよいよ真希ちゃんが登場。「妖艶」と書いて「友田真希」と読む。「友田真希」と書いて「耽美」と読む。AV界を艶やかに飾った稀代の美熟女。奈加さんとはSMシーンで数々の伝説を作った絶妙のコンビ。その奈加さんの手で縛られる悦びを噛み締めている。両脚をグルグル巻きにする縄。この縛りも美しい。侍ヴァンの監督デビュー作『髪結いの女』のあの縛りだ。縄酔いで自然にユラユラ。ユラユラして悶える。悶えて自分から宙に浮いた。股縄が食い込み、さらに高く持ち上げられる。その股縄を自分から股間深く食い込ませようと体を揺らした。
乳房が露出させられる。観客席ギリギリまでスライドさせられ、背後から奈加さんの鞭が飛ぶ。「最後だ、ほら!」魂の鞭。何発も何発も鞭が唸る。空気を引き裂くかわいた音に「イクイクイク~!」と熱く湿った声が重なる。そして絶頂へ。桜吹雪。ステージに下ろされ、縄を解く奈加さんは、後ろから真希ちゃんを抱き締めていた。友田真希、慟哭――。
ついにエンディングのときが来た。出演者全員がステージに勢揃い。まずドグマの監督陣から真希ちゃんへ花束が贈られた。ビーバップ・みのる。ノーマルKIM。侍ヴァン。みんな真希ちゃんのおかげで一人前の監督になったと言っても過言ではない。いい女優さんは監督も育てる。
一観客としてステージを見守っていた森下くるみちゃんも花束を持って登場。「同じ女優として言えるのは、長い時間、長い期間、本当にお疲れ様でしたという一言です」とねぎらいの言葉をかけた。客席のファンからも花束のプレゼント。真希ちゃんの目は潤みっぱなし。続いて、出演者から真希ちゃんとまゆらちゃんへ贈る言葉。
加藤鷹 「僕はいろんな方の引退を見届けさせていただきましたが、すべての方に贈る言葉は同じです。今日も同じ言葉を送ります。二度と帰ってこないでください」
奈加あきら 「真希ちゃん、長い間どうもありがとうございました。あなたがいなかったら、今の自分はないと思っています。今後は幸せになってください。まゆらちゃん、何日か前にこのことを聞きました、友田さんだけでもいっぱいいっぱいだったのに、正直言葉が出ないです。本当に残念です。まだまだ、まゆらちゃんとはやらなければいけないことがあったんじゃないかと思いつつ、しょうがない。本当にありがとうございました。あなたは僕の弟子(縛師として)だと思っているんで、どっかで会えれば幸いです」
日高ゆりあ 「姉妹だと思って、家族だと思って一緒にやってきて、今日なんて来なければいいと思ってたんたですけど、でも終わりになっちゃって、今までお疲れ様でした」
七咲楓花 「まゆらちゃんとは一緒にやってきて、真希さんとはイベントで会って、今回は三人で…なんだろう(言葉にならない)…もっとやっていたかってたなって思うし、本当に出会えてよかったって思います」
えみる 「お疲れ様でした。まゆらちゃんは撮影のときもずっとそばにいてくれて、すごい優しく声をかけてくれて、まゆらちゃんがいたから勇気づけられて頑張れました。真希さんは今日始めて会ったんですけど、楽屋でもいっぱいお話をしてくれて、アドバイスをたくさんくれて、こんな人がずっとそばにいてくれたらなって思いました。本当にお疲れ様でした」女優陣は涙にくれて、上手くしゃべれない。でも、こういう湿っぽいのもいい。「泣いちゃえ」「泣くな」観客席から励ましの声が飛ぶ。そして拍手。
友田真希 「本当に8年間たくさんの人に応援してもらって、ここまでやってこれました。女優を始めるときも、卒業しようと思ったこのタイミングも自分の意志です。こうしてみんなに見送ってもらえることは、女優としてとっても幸せなことだと思います。私のわがままで、みなさんを振り回してしまっているところもあると思うんですが、わがままを聞き入れてくれて、こうやって見守ってくれて、こうやって次のスタートに踏み切れることを、とても嬉しく思ってます。これからも今までの経験をもとに自分の幸せを追求しようと思っているんで、もう応援してくださいとは言えないけど、温かく見守ってください。本当にありがとうございました。」
星月まゆら 「ありがとうございました。これからもずっと見守っていますので、元気になるまで…(言葉が出ない)」二人の切々たるコメントは、後輩である楓花ちゃんとえみるちゃんの心に深く刻み込まれないとたはずだ。
最後にTJが二人にエールを贈った。
TJ 「真希ちゃん絶対幸せになれよ。まゆら、絶対健康になれよ。絶対死んじゃだめだよ。この二人が一度に引退しちゃって、ドグマはどうなるんだよ。正直その気持ちあります。でもここで立ち止まっていられないし、振り向いてもいられない。今の気持ちは、この二人を超えるM女、出てこいやって感じです」 TJが打ち鳴らすテンカウントのゴングが鳴り響いた。その音は、このイベントに参加したすべての人の胸に刻み込まれた――。
